物語を現実に

この現実世界が、ファンタジーのような感動にあふれた世界になりますように。

その仕事に自分自身の意義を乗せているか

 仕事の意義、というのを考えたことがあるだろうか。もちろん各仕事それぞれに必要だからそれがあるわけだが、今回話す「意義」というのはそういうことではない。その仕事の先に、その仕事の役割以外になにか大きな意味があるかどうか、ということだ。

 

 抽象的な話だと非常にわかりにくいので例を挙げる。

 これはとある有名な例だ。三人の人が、ある場所でレンガを積んでいた。それぞれの人に何をしているんですか?と聞いてみた。

 一人目の人はこう答えた。「見てわからないかい?レンガを積んでるんだよ」

 二人目の人はこう答えた。「建物の壁を建てているんだ」

 三人目の人はこう答えた。「ここに新しい図書館を作るんだ。みんながここで新しい知識に触れられるようになる、それって最高じゃないか?」

 そう、やっていることは全員同じ、しかしこの考え方の違いだけで、仕事に対する姿勢の違いが大きく異なって見えることに異論はなかろう。

 まず一つに、他人に与えられたものでなく、自らが目指す目標は、他人から与えられたものより非常に魅力的に映る。そしてほとんどの場合、達成したい目標が魅力的であればあるほど、人間はやる気になるものだ。今回の例でいうなら、ただレンガを積むことが目標の人より、その先に図書館を作るという目標を見据えている人のほうが、より仕事に対して意欲的に取り組めるだろうし、その仕事自体も本人にとって楽しいものになる。

 

 この例は多くの仕事に対しても当てはめることができるが、とりわけ医療者には非常によく当てはまる。

 病院は得てして、ただの機能になりがちな施設である。機能というのは、患者さんの病気を治し、もしくは長く付き合っていけるように治療を施すことである。大まかにいうと、医者はその治療の方針を決め、看護師さんやその他多くの医療従事者は、その治療がより良く遂行されるよう色々な面の仕事を担う。

 さて、この場合医者及び多くの医療従事者は、社会から決められた「患者を治す」という目標にのみ向かっていくことが多い。この場合、他人から(社会から)やれと言われている仕事をやるだけで、その先に何を達成したいか、については自ら設定していないことがほとんどである。だれもその目標を設定しないことに疑問を抱いていない。

 レジナビという、医学生にとっての合同説明会(一般就活生のマイナビリクナビの企業の合同説明会のようなものである)にいくと、それが非常によくわかる。

 普通の企業説明会なら、どの企業も必ずビジョンというものを掲げているし、それがわくわくする会社でないと選ばれないように思うが、病院では基本的にそれは言われない。もちろん形ばかりのビジョンはあれど、ほぼだれもそこを押し出してしゃべろうとはしない。

 それよりは、「救急対応がたくさんできる」「症例数が豊富」「循環器内科が強い」「手術のレベルが高い」といった、どうやって医療としての機能を達成するか、どうやって社会から言われた「患者を治す」といったことをうまく解決するか、といった話ばかりに重点を置く。それはそれでとても大事なことなんだけど、だれもその先の、「そのうえで私たちはこういった未来を達成したい」といった話は一つも聞こえてこない。だれもかれも、与えられた役割をこなすこと(それもとても大事だが)にだけ頭がいき、その先の未来は描いておらず、それを考える人は変な目で見られたりもする。

 実はこれは就職してからもあまり変わらない。私が田舎の病院に就職したのが理由かもしれないが、だれも「医者になって、患者をこう治して、こんな人たちにこういう風に幸せになってほしい」みたいなことは言わない。それぞれの人にぼんやりそういった理由はあるんだろうけど、それは全く表に出てこない。基本的には「患者をいかに治すか、どうやって社会から与えられたことを遂行するか」の話しか出てこない。なので研修医になって聞かれるのは、「どういう医者になりたい?」ではなく、「何科志望なの?」である。

 

 医者のバーンアウトとか言われるが、個人的にはこの、社会から与えられた役割をこなすようにしか働けない業界だからこそ起きやすいのかと思う。医者や医療従事者は、仕事において目をキラキラ輝かせている、といったことがほとんど見られない。やらねばという使命感と義務感でやっている印象だ。

 今やっている一つ一つの医療のその先に何を達成したいのか?社会から求められている機能としてでなく、自分として何がしたいのか?そこが見えているかどうかが、仕事の、ひいては人生の充実度に大きく影響する。

 今あなたは、求められている機能を遂行する機械にとどまっていないか?それとも自分の意義を持っているか?

 特に医療従事者は(もちろんその他職種もだが)、この点に深く留意する必要があるように思う。