簡易ドパミン装置との闘い
人間は気持ちいいことが好きで、いつも快楽を感じていたいと考えている。
頭の中でどばどばドパミンが出るのがたまらなく好きなので、人間はこれを求めるために様々な行動をする。それが例えばエベレストを登頂するといった危険な行為であろうと、50m×10mの巨大な壁画を作るといった、大変労力のかかる行為であろうと、人間はそれらを実行するのだ。ある意味人間はこのドパミンの奴隷ともいえるかもしれない。
しかし、このドパミンが出るような行為というのは、なかなかに大変という面もある。壁は高いほど、達成が困難だったり危険だったりするほど、ドパミンはより放出されるようになっているのだが、実際に達成ができなかったり、あるいは最初からあきらめてしまったりすることもある。
現代の人間においても、やはりドパミンがたくさん出てくれるような行動を起こし、なおかつしっかり結果を出すというのは大変である。
ところが、このドパミンを簡単に出してくれる装置が存在する。それは古くからあるものもあり、また現代において新しく生まれたものも多数ある。
それらは、酒や麻薬、あるいはたばこ、ギャンブルといった物質および行為のことだ。古来よりこれらの物あるいは行為は、人間がはまりやすく、なおかつ抜け出しにくいものと認知されているが、これらの原因は、あまり大きな努力や長い時間をかけずして、気軽にドパミンを放出できる面にある。
もちろん簡単に出せる分弱点もあり、同じ快楽を得るためにどんどん必要な量が増えていったり、なくなると離脱症状が起きるなど、依存症になり健全な生活に支障をきたす可能性がある。いわゆる依存症といわれるものだ。古来より人間は、これらの簡易的なドパミン発生装置と付き合い、そして悩まされてきた。
昔からあるものだからか、今まではこういったものを文化として封じたり、法律として禁止したりと、様々な方策が講じられている。
ところが最近になって、新しい簡易ドパミン装置がどんどん生まれてきている。
そう、スマホゲームである。
普通の買い切りのゲームは、まだ一旦買えばそこでおしまいになるし、コンテンツとしての幅には限りがある。
しかし、スマホゲーム、特にガチャ要素の強いゲームは、新しい簡易ドパミン装置としての機能を十分に備えている。
・手軽に遊べる。
・多くは勝負の要素があり、勝ち負けによるドパミンの放出が促進される。
・たまにレアアイテムが出たりする→ギャンブルと同種の興奮
・アップデートで無限にお金をつぎ込んでしまうし、つぎ込むことでさらに興奮が得られる。
・負けたり、レアのものが出なかったりするとストレスがかかり、そのストレスを埋めるためにまたやりたくなる。
・最初はそこそこのレアで満足してたのが、どんどんお金をかけてくうちに、ウルトラレアを引き当てても満足度が高くなくなる。
など、実は簡単に依存してしまうような要素がある。
私自身スマホゲームはするし、別に悪いものではないのだが、こういった簡易ドパミン装置にはまってしまうと、人生のほかの要素にドパミン放出がしにくくなったりする(失楽園仮説)。また、頑張らなくてもドパミンが放出されるそれらの装置になびいて、高い壁を乗り越えたりしようとしなくなってしまう。
残念ながら、困難な壁を乗り越えるほど放出されるというドパミンの性質上、こういったスマホゲームで質のいい快楽が得られることはあまりない。
基本的には、何かを達成したり、何かを作り上げたりすることによって得られる快楽には遠く及ばない。
自分が本来得るはずだった大きな快楽の代わりに、小さな快楽を毎日少しずつ摂取しているといった感じだ。
人は毎日頑張れるほど強くないし、高い壁から逃げることも別に何も問題はない。私もよくそうしている。
しかし、こういった簡易ドパミン装置の存在、そしてそれにどっぷり浸かってしまっている自分がいるのではないか、そのせいで人生の大きな快楽を逃しているのではないか。こういう視点はとても大事なように思う。